蚊帳の思い出

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昭和30年代の頃と言えば、クーラーはもちろん、扇風機さえ一般家庭には普及していませんでした。真夏の暑さをしのぐには、団扇(うちわ)や扇子(せんす)をあおいで涼をとるか、夜には窓を開けて涼しくなった外の空気を入れたものです。当然,窓を開ければ、夏の大敵「蚊」も入ってきます。それを防いでくれるのが<蚊帳かや>でした。麻を蚊が入ってこない程の網目状に編んだ物でした。蚊帳の中に入る時には、蚊が一緒に入ってこないように、すばやくもぐりこまねばなりませんでした。蚊帳の中は、真っ青な世界で何か別世界に来たような気持ちになったのを覚えています。そして時には、部屋の明かりを求めて、カブトムシやカナブン、クワガタなどが迷い込んできたものです。その頃、東京ではカブトムシやクワガタがデパートで売られていると聞き驚いたものです。そしてやがて、郊外でもそのような昆虫がお店で売られる日が来ようとは夢にも思いませんでした。
蚊帳といえばよく祖母が、雷が鳴ると夜でもないのに蚊帳を吊り、中でお線香を立て「くわばら、くわばら」とお祈りをしていたのを思い出します。後で知ったのですが、昔は<くわばら>つまり桑の畑には雷は落ちないと信じられていたそうです。もちろん迷信だったのでしょう。

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